都内在住

音楽を作って暮らしています。作られた時のお話を書いてます。

バンドを辞めるまでの話4

『小田急相模原』。ふりがなをふってもらうまでは読めなかった。 僕の家は各駅停車しか止まらないこの駅を降りて、二十分は歩かないと見えてこない。渋谷、新宿に出るまで一時間以上はかかる辺鄙な場所だった。そして住んでいた理由は伊藤の親戚の最寄り駅と…

バンドを辞めるまでの話3

数時間もすると、何軒梯子したのかも分からない程に飲んでいた。 昼から続く雨はもう土砂降りになっていて、夜が大泣きしてるみたいだ。それなのに傘を買う気にもなれなかった。 歩くのも辛くなって、ぐしゃぐしゃになり、もうどうとでもなれと思った矢先、…

バンドを辞めるまでの話2

僕らのバンドが機能しなくなって、解散の結論を出すまでに、そう時間はかからなかった。伊藤は徐々にリハーサルにも遅れがちになり、ひどい時は来なかった。そして、帰りは誰よりも早く帰るようになった。 そして瞬く間に最後のライブの日がやってきた。望む…

バンドを辞めるまでの話1

空が溶け落ちたような雨だった。街や空、将来すらも灰色に濡れてしまいそうだった。 新宿三丁目の外れにある交差点の真ん中で、ずぶ寝れになって僕は倒れていた。人が溢れるぐらい歩いているのに、僕に声をかける人は誰一人いなかった。 歓声のような雨音が…

四人でやっている曲の事

高速道路は目を閉じたまぶたに、様々な種類の明るさを放り込んでくる。疲れているはずなのに心が不安定なせいか、もう二、三時間は眠れないでいる。それでも気心が知れた人間だけで移動出来る。たまにそのありがたさを噛み締める事がある。平成二十三年。普…

音楽を初めて、続いている事の理由を忘れないために作った曲の事

自信を失くすと自分を見失い、途方にくれる。 僕がその感覚に初めて滑り落ちたのは十四歳の頃だった。 中学生活も二年目になり、難易度が苛烈する勉強の反動か、教室内で横行するイジメまでが、つられて苛烈していた。 僕自身はイジメの被害者でも加害者でも…

普段独りぼっちの人に届いてほしいと思って作った曲の事

今週のお題「卒業」 人が孤独である事を教えてくれるものが幾つかある。一つは人混み、一つは夜、そしてもう一つは悲鳴が上がらないほど痛めてしまった心だ。 あの日もそうだった。 「おつかれさまでした!」 「じゃあとりあえず、持ち帰ってまた報告します…

将来線路に飛び込まない為に作った曲の事

今週のお題「好きな街」 レールと車輪が断末魔のような音をあげ小田急線は緊急停止した。 「ただいま人身事故発生のため運行を見合わせております。お急ぎのところ大変申し訳ありません。」 アナウンスが鳴り響くと同時に乗客のため息と舌打ちが聞こえてきた…

誰でもいいわけじゃ無い事を忘れない為に作った曲の事

今週のお題「好きな街」 「もしも優勝するとなるとこちらから一年以内のリリースをお約束して頂かないといけませんがそちらは問題ありませんか?」 「はい。問題ありません!」 「では……!」 やけに間が長い。 「おめでとうございます……! 今年の優勝者とし…

失くす事から目を背けない為に作った曲の事

お題「マイルール」 大切なものを失う。という感覚を最初に知るのはいつだろうか。幼児の頃だろうか。それとももう少し成長した頃だろうか。思い出す事ができる者は稀だと思う。 海馬を掘り返すように記憶を探ってみると、鮮明に覚えている一日がある。小学…

護られている事を忘れない為に作った曲の事

頭上の雲まで茜色に染まったかと思うと、次の瞬間には夏の夕闇がにわかに濃く迫ってくる。そんな表現がよくよく似合う、時間の流れがやけに早い一日だった。もう二十年以上前の事だ。 人生には数多くの節目がある。 その中でも幼児から小学生になるタイミン…

道に座り込んでいた事を忘れない為に作った曲の事

今週のお題「好きな街」 貧乏だった。とてつもなく貧乏だった。 僕の生まれ育った街は神戸市営地下鉄の最果てにある「西神中央」という。ニュータウンを気取った田舎だ。 コンビニが出来たのは十七歳の時で、ビデオレンタルショップが出来たのは十八歳の時だ…

上京に失敗した事を忘れない為に作った曲の事

今週のお題「好きな街」 東京に出て来て音楽をやらせてもらって五年になる。上京前は大阪で四年程度やっていたので気付くともう人生の半数を音楽に使っている事になる。 「上京し音楽をやる」 文字にすればたかだか八文字だが当時はそう簡単なものではなかっ…