バンドを辞めるまでの話3
数時間もすると、何軒梯子したのかも分からない程に飲んでいた。
昼から続く雨はもう土砂降りになっていて、夜が大泣きしてるみたいだ。それなのに傘を買う気にもなれなかった。
歩くのも辛くなって、ぐしゃぐしゃになり、もうどうとでもなれと思った矢先、足がもつれ、その場にブッ倒れた。
小さな交差点だった。仰向けになると、真っ暗な空の奥がぐるぐる回っていて、無数の雨が顔面目掛けて降り注いだ。もう、死にたくなった。自分は何をやっても駄目な気がした。
右手から本当にズキリと音がしそうな痛みがする。痛みの先に目をやると、いつ叩き割ったのか記憶に無いガラスの破片が、指の付け根に突き刺さってキラキラと光っていた。
血を見ると余計に痛く感じる。「痛って……」思わず声が出た。死にたいくせに、切り傷の痛みには敏感という自分の中途半端さが嫌になった。
血が雨で流れて、アスファルトの黒と混じっていった。その色を見ているとどんどん悲しくなる。手を舐めると鉄の味がした。ため息と嗚咽が震えながら漏れた。
沢山の人が歩いているのに、誰にも僕が見えていないみたいだった。ここでも、僕は認識されていなかった。
僕らがこの街に来たことも、バンドが解散したことも、リハーサルスタジオさえ満員に出来なかったことも、誰も知らない。思えば思う程、悔しさと情けなさで死にたくなった。
しかし何故こんなにも悔しいのか悲しいのか。僕はそんなに歌で有名になりたかったのだろうか。それとも何も出来ずに終わってしまうのが、嫌だったのだろうか。それらすべてが間違いでもないし、正解でもない気がした。
考えると涯ての無い苦しさに心が絞め潰されそうだった。もういい、それよりも一刻も早く、轢き殺してもらいたかった。
涙で滲んで見える新宿の空はどこまでも真っ暗だった。