バンドを辞めるまでの話2
僕らのバンドが機能しなくなって、解散の結論を出すまでに、そう時間はかからなかった。伊藤は徐々にリハーサルにも遅れがちになり、ひどい時は来なかった。そして、帰りは誰よりも早く帰るようになった。
そして瞬く間に最後のライブの日がやってきた。望む人がいるわけでもない、形式上の解散ライブだ。ずっと雨が降っている嫌な日だった。
ライブハウスを借りて解散ライブをする人気も無かったので、小さなリハーサルスタジオを借りて、そこに十人程度のお客さんを入れた。そんなささやかな解散ライブで僕らのバンドは終わった。上京までしてきたのに、最後の最後、リハーサルスタジオすら満員に出来なかった。それが僕らのゴールだった。
「そんじゃ、おつかれ」伊藤からのあっさりすぎる程、あっさりとした別れの挨拶だった。
決定的な喧嘩別れでもないのに、もう一生会わないような気がした。これほどまでに人との絶縁を肌に感じた経験は初めてだった。胃袋が持ち上がるような、顎の下の柔らかな部分が硬くなるような、緊張と諦めを混ぜ合わせたみたいな感情だった。
「俺らはどうする?」菅さんが高木に言った。
「とりあえず、今日は帰るかな」
「そうすっか」最初から答えが分かっていたような菅さんの返答の早さだった。
僕らはまだ『これから』を見つけられていなかった。見つからないまま下北沢の夜に放り出されていた。心細さがどんどん膨らんで、不安と失望が僕をギリギリと包み込んでいた。でもそれは菅さんも高木も同じように見えた。
その夜はそれぞれの帰路に着くことにした。だが、僕はどうにもやりきれなくて、楽器をスタジオに預けて、新宿に一人で酒をあおりにいった。
着くまでも我慢しきれずにコンビニで酒を買って、満員の小田急線の中で飲んだ。とにかく、一刻も早く意識をあやふやにしたかった。そうしないと胸が千切れてしまいそうだった。